新聞やテレビは信頼を失ったわけではなくて・・・

皆さま、こんばんは。
安希@香港大学大学院の学生寮から。

宿題(テレビ報道用の2分15秒のスクリプトを書く練習)が嫌になって、現実逃避(ネットサーフィン)していたら、「信頼失う新聞・テレビは滅ぶのか」という題で、元NHKの池上彰氏に元朝日新聞の古田大輔氏がインタビューした記事が載っていたので読んでみました。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170415-00010001-bfj-pol&p=1

個人的には、う〜ん・・・そうかなぁ?という感じですね。
ネットメディアの台頭によって新聞やテレビが信頼を失った、というよりは、新聞やテレビはもともとそんなに信頼されてなかった代わりに、今もそこそこは信頼されているというか、信頼度に関してはそれほど変化していないんじゃないかと思います。ただ、メディアの多様化、情報の流通量の劇的な増加によって、情報の取り方が変化しただけなのでは?と。

この記事には、ネットメディアが台頭⇨フェイクニュースが増えてニュースのクオリティーが低下⇨人々がニュースリテラシーの重要性に目覚める⇨旧メディアの価値に気づいて再び購読者・視聴者が増えていくのでは?という懐古主義的な希望が描かれていますが、そういう流れも部分的には起きるものの、全体の流れはそうならないと思います。

私の新聞記者時代の思い出深い取材の一つが、オサマ・ビンラディン暗殺だ。当時は東南アジア特派員としてバンコクに駐在していたが、一報を受けてすぐに現地に飛んだ。

イスラマバード支局と連携し、翌日には米軍が急襲した隠れ家があったパキスタン北部アボダバード入りができた。世界のメディアの中でも早い方だっただろう。世界中に取材網がある大手新聞社だからこそ可能だった。

日本のネットメディアが同じような取材をできるようになるのに、どれだけの時間がかかるだろう。そもそも、可能かどうかもまだわからない。

独自の取材で世の中に影響を与えるスクープをとるネットメディアは日本でも出てきた。BuzzFeed JapanによるWELQ報道のように。それでも、日々のニュースを網羅する力は新聞やテレビにはまだ遠く及ばない。

上記の部分を読んで思うのは、旧メディアが「世界中にある取材網」= ”ネットワーク” や「翌日には現地入りできた。世界のメディアの中でも早い方だった」= ”スピード” を 自分たちの強みと位置づけて、「ネットメディアは新聞やテレビには遠く及ばない」と思い続けていると、そのうちポロっと滅びるんじゃないかということです。

ネットワークとスピードでは、ネットメディアには絶対に勝てないですから。「バンコクから飛ぶ」という時間のロスによって、旧メディアはむしろ自らの首を絞めることになると思います。それよりは、アボダバード周辺にいる住民がライブで流してくる動画や通信社からのライブ通信をいち早く(というか、ほぼオンタイムで)「検証」「分析」「翻訳」して流すことに注力すべきなのでは、と。あるいはスピードの部分は諦めて、専門家の分析や解説に時間・紙面を割くなどして、ネットメディアとの差別化を図った方がいいのではないかと思います。

「トランプ大統領は新聞やテレビをフェイクニュースと批判しますが、実際にはニューヨークタイムズの電子版は読者が増えています。政治をきちんと監視していくと、支持を得られる。世界中の人がニューヨークタイムズを読む。希望的な思いも込めて、メディアにエールを送りたいです」

ニューヨークタイムズが電子版のサブスクライバーを増やしているという話は、デジタルジャーナリズムの希望として数年前から繰り返し語られていて、旧メディアが再評価されているという例にも使われることが多いです。ただ、ニューヨークタイムズがサブスクライバーを増やしているからといって、日本やその他の世界の旧メディアに同じことが起きるかというと、起きないのではないかと私は思います。ニューヨークタイムズという世界的に有名な英字メディアは、デジタル化=流通のハードルが下がる=グローバル化=潜在的読者(パイ)の拡大=講読料の低料金化=購読登録の簡易化=さらにパイを拡大、というモデルでビジネスを拡大できていますが、では日本の新聞の場合はというと、日本語を使っている限りグローバルにパイを拡大することは難しいです。

もちろん、日本でも多言語化や国内でのブランド力を生かして、デジタルサブスクライバーを増やしていく新聞が出てくる可能性はありますし、実際にヨーロッパの新聞社などで、うまくいっているところもあるようです。

ただ、流通のハードルが下がる分、世界規模で競争は激しくなりますから、淘汰は進みます。ニューヨークタイムズのサブスクライバーが増えたからといって、じゃあ、ワシントンポストも、ファイナンシャルタイムズも、ガーディアンも、それから日本の朝日と読売と毎日を、そして香港の蘋果日報とSCMPをサブスクライブしようという風にはならない。むしろ、世界のニュースはニューヨークタイムズとAFPの日本語版を読んで、ネットでBBCライブとCNNを見るぐらいで十分、と考える人も出てくるはずです。(だから日本の新聞で世界のニュースを読む必要はなくなる・・とかですね)

したがって、これまで旧メディアがクオリティーを担保するために頑張ってきた功績は十分評価すべきだとは思うものの、ネットのフェイクニュース問題によって旧メディアの再評価が進み、それによってかつてのような購読者や視聴者が戻ってくるだろうと考えるのは安易だと思います。

繰り返しますが、新聞やテレビは、急に信頼を失ったわけではありません。メディアが多様化し、流通のハードルが下がったことで「競争のルールが変わった」ことが、購読者数が減少した一番の要因です。世界中どこにいても、世界中のメディアが配信するニュースを受け取れる時代。15年前に海外留学していた時は、日本の新聞も本も、手に入れるのは一苦労でしたが、今、香港での2度目の留学生活では、全てが瞬時に手に入ります。日本からも、現地香港からも、そして世界中のメディアからも、さらには世界中の個人からも、日々、消化できない大量のニュースが流れてきます。

15年前と変わらず、どの旧メディアもそこそこ信頼していますが、私の1日は15年前と変わらず24時間しかないので、流通する情報量が増えたからといって消費量が劇的に増えるわけではないんです。

日本の各メディアが生き残るためには、ネットワークやスピードなどを重視してきた総合力での勝負をやめて、例えば、組織力と経験値を必要とする丁寧な調査報道やユニークな論説などの独自性や専門性を伸ばしていく方が良いと思うのですが、どうでしょうか?

ではまた、ごきげんよう。
安希

あ〜、宿題嫌だヨォ・・・

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3件のコメント

  1. 国民はマスメディアの偏った報道に洗脳されている。自分で考える習慣を取り戻さないとこの国の将来は危うい。
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    1628
    >> 返信コメント 272件
    c24***** | 2017/04/15 16:00
    権力と大口スポンサーに媚を売る~
    宣伝会社と思った方が良いですよ…
    私もこの思い出新聞を購入する事をやめました。ひさぶりに安希さんの文章にがんばっているんだとうれしく思いました。

  2. ネットメディアが淘汰されるか、難しいかも、と思います。
    市場メカニズムがうまく働くでしょうか。

    報道サイトは、星の数ほどあるサイトの一部に過ぎず、とくに珍重されるものではない。
    報道機関のサイトでなくても、SNSでも園芸ブログでも、報道機関の扱うような情報を流すからです。

    PVを稼げれば、コンテンツの真偽はどうでもよろしい。
    面白ければそれでいいので、そのように加工してしまう。
    面白ければ、それは「信頼のおける情報」と見なされる。

    ネットニュースにつくコメントを見ると、
    ・書いたのが「専門家」でも、自分の嗜好に合わなければ、それは信頼されない。
    「専門家」だから信頼されることはない。
    自分の嗜好に合うニュースを書くのが、信頼できる「専門家」である。
    ・自分にとって心地よいニュースが正しいニュースと考える。
    といった傾向を感じます。
    「これはAP通信だから、正しい」とは考えられていない。

    クリントンはISに武器を売っていた、と書けば、共和党支持者はそれを信じたいから、信じてしまう、といったことがありました。
    「南京大虐殺」は、日本人に対して快いものではないから、「ねつ造だ」という報道の方を信じる。

    スティグリッツが「情報の非対称性のあるところでは、市場メカニズムが働かない」と言っていますが、似たところがあると思います。

    書き手が面白く書けば、誤った情報でも高値がつく。(PVが多く、リピーターの多いサイトになる)
    正しい情報でも、つまらなければ、読もうとは思わない。(再び訪問されることがない、PVが少ない、人気の無いサイトになる)

    悪貨が良貨を駆逐するように思います。

  3. 変わることができるものだけが生き残ることができる、って誰か言っていたかと、、、。あきさんの説に120%賛成ですね。日本の大手といわれるメディアは相変わらずです。昔の栄光にまだ浸っている?大手と言われたメディアになるでしょう。なのであきさんのせっかくの提案も届かないでは?ほんと残念です。

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