タックスヘイブンで倫理観もへったくれもないです(モーリシャス)

皆さま、こんにちは。安希です。

パナマ文書なるものが出回って、「タックスヘイブン(租税回避地)」やら「世界の富豪」やら「グローバル企業」が注目を集めていますね。今は文書が出回った直後なので、注目度が高いですが、そのうちまた忘れ去られるんだろうなと思います。まさか、今回の報道で「グローバル企業や大富豪って、裏でそんなことしてたのか?!」って驚いた人はいないでしょうから。

今まさに旬のタックスヘイブン。この単語を聞いて思い出すのは、2年前に訪れた「ケイマン諸島」と、去年、夏の2週間を過ごした「モーリシャス」です。モーリシャスは、厳密にはタックスヘイブンではないらしいですけれど、一種のタックスヘイブン(何が違うんだ?)だそうでして、ケイマン諸島と少し雰囲気が似ていました。ケイマン諸島ほどではないですが、国内産業の規模感に見合わないインフラの充実ぶり、生活水準と物価の高さには、やはり独特のものがあります。そこで今回は、「金で作られた街」で過ごした日々を懐かしく振り返ってみることにします。

■ キャナルに面したバルコニー付きのお家

去年の春、銀行マンの友人から一通のメールを受け取りました。モーリシャス支店の支店長に着任し、素敵なバルコニーのついた家に住み始めたのだけど、部屋が余っているので好きに使っていい、と。そこで夏頃から行く予定だったアフリカ旅行の前に、モーリシャスにも立ち寄ることになりました。

空港到着後、レストランに向かう車の中で友人から最初に聞かれたのが、「何をしにケイマン諸島に行ったのか?」でした。理由は特になくて、ジャマイカからキューバに行く途中で、たまたまストップオーバーしただけだったんですけれど、彼が「ケイマン諸島どうだった?」と聞くので、「小さな島なのに、お金だけじゃばじゃばあって、ビーチリゾートで散財した人でなければ、半日で退屈してしまうような島だった」と答えました。
で、なぜそんなことを彼が聞くのかというと、今回の異動で「ケイマン諸島」と「モーリシャス」のどちらに行きたいかと聞かれて、最終的に彼はモーリシャスを選んだとのこと。ケイマン諸島が退屈そうだったと聞いて、行かなくて良かった、と思ったかもしれません。

お家は、いわゆるゲートタウンの中にあり、キャナルに面したバルコニーからは、気持ちのいい潮風が吹いてきます。支店長の友人は、もっと大きな家を勧められたみたいですが、あえて「普通の家」にした、と。それでも全く使っていないベッドルームとバスルームがあったので、「分かりました。わたくしが使って差し上げましょう」ということで、居候生活が始まりました。

■ 優雅に語り合うマネーロンダリング

モーリシャスの日々は、とても穏やかでした。私自身、ビーチリゾートには興味がなく、唯一やりたかったことと言えば、静かな環境で原稿を書きたかった・・・、それだけです。彼もその事をよく理解した上でお家を使わせてくれていたというのもあり、2週間は規則正しく過ぎていきました。モーリシャスに2週間滞在しておきながらビーチで過ごした時間がたったの30分という人も珍しいと思います。しかもその30分は、砂の上に寝転んで本を読んでいただけ・・・でした。(そもそも水着を持たずにモーリシャスに行っていますから。笑)

朝は、バルコニーで朝食を取りながら1時間くらい話をします。内容は日によって違いますが、私が好きだったのは金融業界の話。インドへの投資の大半がモーリシャスを経由して行われるということで、インドの株式市場が荒れると大騒ぎになるんです。彼の周りに集まってくる世界各国の金融マン、投資家、企業経営者、富豪、それに政府の役人などの話を聞いていると、やっぱりね、世の中って「人脈と金」なんだなって思います。そして人脈と金=権力なんですよね。みんな、支店長の彼には、ごますりすりです。

ただ、金融業界の話で一番面白かったのは、マネーロンダリングと裏金の話です。こんなインド洋の小島に、バカンス以外の目的でわざわざ人が来るのには、やっぱり理由があるんですね。彼が言うには、世界の金の三分の一は、いわゆるダーティーマネーだそうでして、要は麻薬取引や臓器売買、武器の密輸などの犯罪で手に入った莫大なお金が、行き場所を求めてモーリシャスにも流れてくるらしい。ただ、支店にやってきた人と話をして、「ん?コイツ怪しい」と見抜いて取引をお断りするのは、彼の責任。しかも、やんわりとお断りして面倒を起こさせないのが、腕の見せ所です。

■ 世界は、菓子折りと雑居ビルの一室で成り立っている

相手は、なんとか取引きしてもらおうと必死です。でもそのやり方が、わりと雑でプリミティブだったりして笑えました。具体例は出せないですけど、例えば、挨拶に札束の詰まった菓子折りを持ってくるようなイメージです。
「大したものではないですが、みなさんで召し上がってください」
と、生八つ橋を一箱いただいたとして、家に帰って開けてみたら、一番上の層だけ、生八つ橋がペローンと入っていて、下の分厚い土台は福沢諭吉だった、みたいな感じ。相手も、ごくごく自然な感じで「菓子折り」を置いて行くので、知らずに受け取ってしまうこともあるんだそうです。
「それで、気づいたあとはどうなるの?」
「それはもちろん、丁重にお断りするよ。お礼を言って、箱だけお返しする」
ただ、中には「その程度のお金なら」ということで、懐に入れてしまう人もいるみたいです。そうでなければ、相手だってそうそう「菓子折り」を持っては来ないでしょうから。受け取ってもらえなかった相手はがっかりしたでしょうが、彼は真面目なんでしょうね。私だったらお礼を言って、生八つ橋だけ丁重にお返しするけどなぁ。サランラップなんかに包んでね。私、けっこう箱好きだから。(笑)

実際に箱を受け取って停職処分になった人の話なんかも聞きましたが、思うに、罪悪感みたいなものはほとんどないと思います。八つ橋ならいいけど、お金だったらアウトなのか?じゃあ、ドンペリだったら?ダイヤモンドだったら?あるいは女だったら?(現地では、金融関係の接待で女をあてがう、みたいな話もいっぱい聞きました。まー、権力と金のあるところ、なんでもありですよね)。

21世紀でも、菓子箱に札束を詰めるとか、それを受け取ってしまうとか、わりと雑でプリミティブなのねぇ、と去年の夏に思ったのですが、最近、東京オリンピック招致費用として振り込んだ2億超円の振込先の会社の所在地(シンガポールのボロい公営住宅の一室)を見て、うん、やっぱり世界ってこんな感じで回ってるんだなって思いました。どういった類いのお金かは分かりませんけれど、受け取ってもらわないと困るお金(五輪を招致するために・・)を「権限のある人物」にいかに受け取らせるか、というのがグローバルビジネス(五輪もビジネスだから)では重要です。

あるグローバル企業の海外戦略やってる友人も、よく言ってました。
「相手企業の利益になるとか、よりよいサービスであるとか、そんなのは全然関係ない。海外展開したかったら、その筋で権限のある人を捕まえて、その人に集中的に資金投下すること。最初は、いえいえ、私なんて、大して権限もないですし・・・、って遠慮している人でも、継続的に働きかければ、最後は金も女もみやげ物も受け取るようになる。そこまでいけば勝ちだ」って。
たいして権限もない10人を3億円の予算で説得しようとするより、権限を持つキーマンに1億円受け取らせたほうが、絶対上手くいくからね。って。

たまにこういう「大金」の話を聞くと、面白いなぁって思います。世界は、菓子折り(裏金)と雑居ビル(ペーパーカンパニー)で回っていて、たいした産業もなく、たいした仕事もせず、ポワ〜ンとしてるような島にお金がじゃばじゃば集まってくる、と。そして、その島に結集させるお金を、産業や工場を持つ国に生まれてしまった勤勉で永遠に貧乏な人たちが、過労死寸前の労働で作り出しているっていう構図ですよね。

■ 倫理観に逃げないで、ルールの話をしよう

朝食が終わると、友人は仕事に出かけ、私は家で原稿を書きます。車がないのでどこにも行けないし、ネットも繋がらないし、何もないので、静かに仕事をするには最高の環境でした。
昼ご飯は、勝手にキッチンで作って食べて、夕方は、仕事から帰ってきた友人と食事に出かけ、今日の出来事について延々と話し合います。彼は支店長なので、そこそこのお給料はもらっていると思いますが、それプラス、モーリシャス国内で使う生活費が毎月現金で支給されていて、それがなかなか使い切れないのだとか。それで、私も、世のため、人のため、彼のため、と思って、せっせせっせと飲食店に通って「生活費を使い切る」お手伝いに励んでいたんですけれど、やっぱりね、外食っていうのは飽きてしまう・・。

彼の自宅には、「知り合い」からの贈り物の類いもいろいろありました。溜まっていた高級食材や茶葉、ワイン等は、私がせっせせっせと片づけました。まあ、特技と言えば食べることぐらいですからね。

とまあ、このようにして、金と地位のあるところには、いろんなものが集まってくるんだなぁと感心した次第です。モーリシャスに行く直前の3週間を、世界最貧困国の一つであるバングラデシュで過ごしていたというのもあって、その落差が非現実的でした。(これまでにも局地的に困窮してる現場というのは、いくつか見てきましたけれど、国全体の困窮度合いというか、規模感という意味では、バングラデシュの暮らしは相当厳しいと思いました)

ただ、こうして「タックスヘイブンの優雅な暮らし」を無邪気に紹介したりすると、「あなたの倫理観はどうなっているのか?」的な批判を受けることがあります。世界にはこんなにも困窮している人がいるのに、自分たちばかり美味しいものを食べて、優雅な暮らしを楽しんで、人として罪を感じないのか?バングラデシュの人をかわいそうだと思わないのか?と。

はっきりいって銀行の支店長クラスなんて、お金持ちでも何でもないですけれど、これが世界の富豪、グローバル企業の経営者のレベルになったときにも、やっぱり「モラル」の問題が持ち出されてきます。今回のパナマ文書などはその典型で、タックスヘイブンを利用するなんて、なんて強欲なんだ、ズルいんだ、倫理観のかけらもない!と言った、感情的な批判が出てきます。

これ、本当に意味のない批判ですね。違法じゃないですから。

むしろ、富の偏在などというものを、人間の倫理観に頼って解決しようという考えは、おかしい。なぜなら「倫理観」は、人によっても、国や地域によっても、全然違うから。中には、「私が手にしたお金は、私の倫理観に基づいて全額NPOに寄付します!(おかげで、税金の控除が受けられます)」という倫理基準を持って人もいるでしょうし、「私は、配偶者控除が受けられるように、パートタイムで働いて節税しています」という倫理基準の人もいるでしょうし、「私は、親から相続する遺産が一兆円あるので、200億円をNPOに寄付し、残りを資産管理会社に管理してもらったところ、名前がパナマ文書に載りました」という倫理基準の人もいるでしょう。どの辺までが適切で、どのへんからがズルいのか、線引きするのって難しいです。これが、海外の「倫理基準」ともなれば、それこそ日本的な感覚で言うところの「倫理観」なんて、まったく通用しないと思います。

今回、五輪招致委員会が金を支払ったとされているディアクさんという人、セネガルの人のようですけれど、アフリカの感覚では当たり前なんじゃないかなという印象を受けました。裏金なしで物ごとが進むなんてことが、あるかぃ!っていう地域柄なので。(笑)日本はそうでもないですけれど、世界では、権限のある人に金渡しちゃうのが一番手っ取り早いです。みんなやってるんだし、それが普通なんだし、という感じ。倫理観なんて、所詮はそんなものなので、何の助けにもなりません。

個々人の倫理観を問題にするというのは、利益の再分配を個人の裁量に委ねると宣言しているようなものです。富豪たちにとっては、こんなのは痛くもかゆくもないですし、「倫理観」という曖昧な定義が、逆に隠れ蓑になってしまう。まったく異なる倫理観を持った人々を公平に扱えるのは、「ルール」だけです。問題はプレイヤーではなく、ルールです。倫理観の話ではなく、ルールの話をしたほうがいいです。そのためには、腐りきった世界の政治をなんとかせにゃいけないんですけどね。ルールを作るのが彼らの仕事なんだから。

 

■ 大好きだった屋台の朝食

ところで、モーリシャスで過ごした穏やかな日々の中で、大好きだった朝食がありました。週末にいつもブランチをしたスープ&サンドウィッチの屋台です。街の労働者が食べにくる人気店なんですが、揚げたてサクサクのチキンを挟んだサンドウィッチを、豆のスープに浸して食べるという絶品!いろんなお店に連れて行ってもらったけれど、もう一回食べたいと思うのは、あの屋台メシですね。屋台でご飯を食べたあと、露店で新鮮な野菜を量り売りしてもらう週末は、心ときめくひとときでした。

30代で支店長になった友人は、確かに仕事の哲学は厳しいですし、これからぐんぐん出世して、年収1億円くらいはすぐに突破すると思います(外国の銀行は、給与体系が日本とは違うので)。彼のことだから、節税もうまくやると思います。もちろんルールの範囲内で。でもね、そういう彼に出会ったのは、実は一泊700円のバックパッカー宿だったんですよね。あれから何年もたった今でも、相変わらず屋台メシを食べて、「ここのサンドウィッチ、うめぇ〜〜!」と言い合える友だちでいられることが、私はとても嬉しいです。

以上、世界のダーティーマネーが集まる一種のタックスヘイブン、世界の投資を集める屈指のビーチリゾートから、全然ギラギラしていない、まるでピチピチしていないレポートでした。

ではまた、ごきげんよう。

安希

モーリシャスの屋台

スープ&サンドウィッチ

 

 

 

 

 

 

 

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5件のコメント

  1. 倫理観とルールの話、とても面白かった。それにしても、お金持ちというのは、天井なしですね。縁のない世界でおわりそう。

    1. お金って、あるところにはいっぱいあるんですよね。はっきり言って余ってると思います。世界の大富豪投資家ウォーレン・バフェット自身が、どうして金持ちばっかりこんなに優遇されてるの?って言ってるくらいですから。

  2. 久しぶりの長文で、楽しく読ませていただきました。
    タックスヘイブン。「ところ変わればルールも変わる」お国も色々だなーと感じました。「ルールに反していないならセーフ」だと思います。
    今回は、むしろ生八つ橋の方に関心が行ってしまってすみません。特にわたくし「皮」が好きで、先ずは餡の部分だけを歯形状に食べて、甘い部分をコーヒー流し込みリセットしてから、残りの餡無し歯形三角を楽しんでおります。「皮」だけ八つ橋も販売されていますが、後ろめたさがなく「邪道なわくわく感」が無くてものたりない。
    まるで、粉っぽくてデレーっとしたコメントですみませんでした。

    1. 私も生八つ橋は「皮」が好きです。あんこ、おいしくないです。赤福のこしあんぐらい美味しいあんこだったら、完璧だったんですけどね。

      先日、金沢に行きました。本当は富山でホタルイカを食べたかったんですが、翌日仕事があったので、交通の便を考えて金沢にしました。北陸って、美味しいものいっぱいありますね。鯖のへしこ、最高でした。

      1. ホタルイカは旬のものなので、機会があれば富山にもお立ち寄りください。
        ちなみに、刺身、沖漬けなどは高級感がありますが、茹でたてプリプリを酢味噌和えでいただくことをお勧めします。
        タックスヘイブンがグルメネタになってしまいすみません。

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