110.サハラ砂漠の深い懐③(シュム)
砂漠の旅、第3部。夜空に赤い星が流れて、神秘のサハラ、偉大な砂漠で人々は…。

皆さん、こんばんは。

「サハラ砂漠の深い懐③」です。

■ワゴンに乗ってどこまでも

さて、シュムで待つこと3時間半、6時ごろになって貨物列車がやってきました。
世界最長の2キロ以上のなが~い列車は、210車両(?)が鉱物を運ぶワゴンで、最後の2両だけが乗客用の列車です。
駅らしいものは何もなく、列車が停車したら、はしごをよじ登って乗り込む方式。しかもワゴンならタダ乗りオッケー!ということで、もちろん私は、ワゴンです。
一緒にトラックで来た皆さんは、乗客用車両に乗るらしく、「ワゴンは危ないから乗客用の一般車両に一緒に乗ろう!」と何度も誘われましたが、景色や夜の星空を楽しむにはやっぱりワゴン。こんな経験は日本ではできないゾ、と考えて一人でワゴンに乗ることを決めました。

が、荷物が重すぎてハシゴが…、ハシゴが登れない…。荷物を一つずつ担ぎ直して、今度こそ、おりゃ~!ハシゴにしがみついて、おりゃ~!ワゴンの鉱石の山の上へ、バックパックを放り投げて、お~りゃ!!
はい、ワゴン乗車に成功しました。それにしても、この鉱物は何なのでしょうか?鉄でしょうか?真っ黒な瓦礫の山です。
黒石の山の上に座って、もう一人乗っていたターバン姿のおじいさんと一緒に、砂漠に沈む夕日を眺めました。
ここでもう一度、忘れられない光景を目にしました。
それは、前のワゴンに乗っていた若者4人と、おじいさんが、ぐらつく石の山の上に立ち上がると、南東の空に向かって祈りを捧げ始めた姿です。
バランスを取るのも大変なワゴンの上で、黒い瓦礫の山の上でふらつきながら、彼らは神に祈るのですね。

日が沈み、夜になると、今度は石の山を慣らして就寝準備。揺れで落っこちないように、ワゴンの隅の窪みを利用して、バックパックを埋め込み、真っ黒な瓦礫のベッドを作りました。
ワゴンが大きく揺れると、ターバンのおじいさんが、こちらを振り返って、私が落っこちてないかを確認してくれます。何も言葉は話さないけれど、この渋いおじいさんは、必ずこちらを振り返ってくれるのです。
そこで、夕飯に持ってきたビスケットを、3分の1、ビニール袋に入れておじいさんに渡してみることにしました。
おじいさんは、私には分からない言葉で何かを言って、少し会釈をしてビスケットを受け取ってくれましたよ。

夜の冷えに備えて、あるだけの服を全て着込み、瓦礫のベッドに仰向けになると、あ~、360度、満天の星空~。世界一美しい川、それは天の川~。
そしてMP3でBGMスタート。夜空を見上げながら聞くのは、キルギスタンで出会った日本人の駐在員さんに「アフリカに行ったら絶対聞いてください。」と言われて聞いている歌、さだまさしの「風に立つライオン」。

バファリンで抑え切れなかった頭痛がくすぶって、微熱が取れず、けれど何かに祈るような気持ちで夜空を見上げ、まばたきを惜しんで眼を開き、「風に立つライオン」を聞きながら見たものは、完璧な4つの流れ星でした。
特に4つ目、赤い星が流れた時は心臓がドキドキしましたよ。赤い星は流れない、の今までの定説を破って、ギラギラの赤い星が3秒半くらいくっきりと線を描いて流れ、最後にギラリと煌いて濃紺の夜空に消えました。

さて、冷気が漂うワゴンの中で、縮こまって寒さをしのいでいた深夜、列車が一時停車し、しばらくすると、トラックで一緒だったおじさんが瓦礫の山を登ってこちらへやってくるのが見えました。
「今から皆で、お茶を飲むんだ。一般車両に移って、一緒にお茶にしよう!運賃はいらない。タダだから心配するな。」
「・・・?お茶?」
「お茶会だよ。お茶会。早く行こう!」
「運賃のことが問題なのではなくて、ただ星空が見たくてワゴンに乗ってるだけなんだよ。だから私は、ここでいいんだけど…。」
「いやダメだ!とにかくお茶だ!」
せっかく誘ってもらって、断るのも悪いので、ならばお茶会に参加したらまたワゴンに戻るのでいいかしら?と聞くか聞かないかのうちに、おじさんは私のバックパックを瓦礫の中から掘り起こし、勝手に担いで…、ああ、ハシゴを降りていく~。
ちょっと待っておくれ~、私の瓦礫ベッドがぁ~、おっちゃん、待ってぇ~。

結局列車が動き出す前に、大慌てで一般車両へ乗り換え、コンパートメントへ行くと、トラックの皆さんが勢ぞろいで嬉しそうに迎えてくれました。
特に、昼間はトドおばちゃんの後ろに隠れて大人しかったヤギおばちゃんが、白い前歯を覗かして、あらまあ、ちょっぴりはしゃいでいますよ。
普段は外出も控えなければならないイスラムの女性にとって、今回の夜行列車の旅は、他の乗客と楽しいひと時を過ごせる楽しみな行事だったのかもしれないですね。
電気も無い真っ暗な車両にロウソクを灯し、6人掛けの椅子に、8人くらいで詰めて座り、さあ、盛り上がっていきましょう!

電気は無いけれど、なぜかちゃんとしたお茶セットとガスコンロがあるところがサハラの不思議です。
お湯を沸かし、お茶の葉にミントの葉も混ぜて、本格的なお茶会の始まりです。

小さなグラスに入れたお茶を高い位置から別のグラスに流し入れて泡立てる西サハラ式のお茶を入れる始めると、ほら、列車が揺れて、熱湯が手にこぼれて「熱っ!」もう一杯入たら、「熱ッ!!」
驚きました。お茶にかけるモーリタニア人の情熱を垣間見た気がします。
と言うか、モーリタニアの皆様よ、ガスコンロの前に、まずは電気を点けることを考えてみませんか?

昼間虫歯に苦しんだお兄さんは、再び虫歯が痛み出した様子。お茶会のみなさんも、ヤブ医者安希の治療をそれとなく期待しているらしい。
そこでヤブ医者は思いました、「あ~、もういいや、この変てこなモーリタニア人の為だ、バファリン(貴重品)を使おう。君はお茶を分けた。我、バファリンを分けるなり。」と。

ヤブ医者らしく、格好良く決め込んで、バファリンを2錠投与。そしてお兄さんに言いました。
「薬を飲んだら、静かに目を閉じて寝てください。」
それでも時々お茶会が気になって起きてくるお兄さんを座席の片隅へ追いやって、
「だめだよ、寝てなくちゃ!ほら、目が開いてるじゃない!目を閉じないと歯は治らない!」
とヤブ医者らしく注意を促し、自分達はお茶会で大いに盛り上がったのでした。まるで高校生の修学旅行のノリでした。

お茶会にも疲れた深夜、廊下へ出て窓の外の夜空を眺めていると、あ~、また流れ星~。
すると、皆さんまでぞろぞろ廊下へ出てきて、窓に並んで夜風に当たり、星を眺め始めました。
まるで高校の修学旅行みたい!どうしましょうか…、こんな深夜に夜行列車の窓に並んでねぇ、夜空を眺めてねぇ…、愛でも語らっちゃいますかぁ?
語らっているうちに、隣にいる男性(トラックのグループではないけれど、お茶会で手を焦がしてお茶を入れてくれた人)が、この列車の車掌さんだということがわかってきました。
彼のフランス語を総合すると、「ワゴンに女性が一人で乗るのは心配だったので、僕の配慮で、君を一般車両へ移した。運賃も僕が帳消しにしました。」と。
はぁ、どうもすみませんです。ワゴンにいたら、今頃凍死してました。どうもです。

そのまま車掌室へ案内され、するともう一人の乗務員と、おお~、どうしてか、トドおばちゃんが3席分も占領して、ゴロっと寝転がっております!おばちゃん、こんな所にいたのかぁ。
そして、車掌さんがガスコンロで再びお茶を入れ始めると、おお~、トドおばちゃんが起きてきた!
そこから、車掌さん、乗務員さん、仮眠リフレッシュしたトドおばちゃんと私の四人で、再びお茶会が始まりまして…、さらに、元気になったトドおばちゃんが自慢の腕力を披露してくれることになりまして…。
はい、深夜2時、ロウソクを灯して、腕相撲大会が始まりましたよぉ~!

疲労と発熱の私は、トドおばちゃんに腕をへし折られそうになりました。
乗務員(男性)まで負かしてしまったトドおばちゃんは、とどまることを知らず、うわぁ、今度は脱ぎ出した!
「おばちゃん、脱がなくてもいいよ。夜だし、列車だし、イスラムの国だし、女性は人前で肌なんか見せちゃだめじゃんかぁ!」
それでも自慢の腕を見せたくなってしまったトドおばちゃんは、バリバリ~っと服を脱いで下着姿になり、豪腕を見せてくれました。はい、腕幅は、わたくしの3.5倍ほどでございます。パチパチパチ~。

熱湯で手を焼きながら、何杯ものお茶を入れてくれるモーリタニアの人々の気持ちに押され、ここで盛り下がってはいけない、と自分の体に最後のムチを入れて、深夜のお茶を飲み続けました。
皆さん、どうもありがとう。

■サハラ砂漠の深き懐

列車の外が明るみ始めた早朝5時ごろ、再び私が目にした光景は、廊下に敷物を敷いて祈りを捧げる乗客たちの姿でした。
朝もやの中、冷気の立ち込める列車の廊下で、人々は静かに祈るのです。ただ、それだけのことなのです。

「やれ、イスラム教は過激だ、砂漠のトゥアレグは危険だ、モーリタニア人はテロリストだ」と騒ぎ立てる外部の雑音から離れたこちら側の世界、サハラ砂漠の内側で、人々は静かに祈りを捧げていました。

サハラ砂漠の深い深い懐です。

■アフリカで聴いたこの歌を

神秘のサハラ、灼熱の砂漠、発熱のワゴン車の中で、流れ星を見上げながら聴いたこの曲で、今レポートの締めと致しましょう。さだまさし「風に立つライオン」です。
これまでに出会ってきた沢山の人々のことを想いながら、強い感謝の気持ちを持って、この曲を聴きました。

注:歌の詩は、単身アフリカへ渡った医師が、結婚が決まった昔の恋人に宛てて送った手紙?だったと思います。

突然の手紙には驚いたけど嬉しかった。
何より君が僕を恨んでいなかったということが。
これからここで過ごす僕の毎日の大切な、拠り所になります。
ありがとう、ありがとう。

(時々頂く皆さんからのメール、嬉しく拝読しています。まだもう少し旅の続く私の大切な、拠り所になります、ありがとうございます。)

ナイロビで迎える三度目の四月が来て今更、千鳥ヶ淵で昔、君と見た夜桜が恋しくて、ふるさとではなく東京の桜が恋しいということが、自分でも可笑しいくらいです、可笑しいくらいです。
(旅人として迎える二度目の三月が来て今更、出発前に皆さんと集まった飲み会が恋しくて、ふるさとの桜ではなく東京の飲み会が恋しいということは・・・ん?自分はちょっとオカシイのかな?やっぱり大分オカシイのかなぁ。)


三年の間、あちらこちらを回り、その感動を君と分けたいと思ったことが沢山ありました。

(21ヶ月の間、あちらこちらを回り、その感動を皆さんと分けたいと思ったことが沢山ありました。)

ビクトリア湖の朝焼け、百万羽のフラミンゴが一斉に飛び立つとき暗くなる空や、キリマンジャロの白い雪、草原の像のシルエット、何より僕の患者達の瞳の美しさ。
(ビクトリア湖の幻想的な朝焼け、何百頭ものヌーが一斉に走り出すとき揺れる大地や、キリマンジャロ近くの小山での宝掘り、バスの前を横切っていた像の親子十数頭、何よりアフリカの子供達の瞳の美しさ。)


この偉大な自然の中で病と向かい合えば、神様について人について考えるものですね。

(この広大な砂漠の中で発熱と向かい合えば、神様について人について考えるものですね。)

やはり僕達の国は残念だけれど何か、大切なところで道を間違えたようですね。
(これから修正が必要な部分、いくつかあると思います。)

去年のクリスマスは国境近くの村で過ごしました。
こんなところにもサンタクロースはやってきます、去年は僕でした。
闇の中ではじける彼らの祈りと激しいリズム、南十字星、満天の星、そして天の川。

(去年のクリスマスはブルキナファソで過ごしました。
サンタクロースはやってきませんでした。ムスリムの国でした。
闇の中にいつも音楽が鳴り響き、人々が祈る場所、そこがアフリカです。
電気も水道もガスも、途上国に無い物はたくさんあるけれど、夜空を見上げると必ず、そこには満天の星空があります。)

診療所に集まる人々は病気だけれど、少なくとも心は僕より健康なのですよ。
(モーリタニアの人々の段取りの悪さは病的だけれど、少なくとも心は私より健康なのですよ。)

僕はやはり来てよかったと思っています。
つらくないと言えば嘘になるけど、幸せです。

(目を閉じてこのフレーズを聴くと、涙が出ます。)

あなたや日本を捨てたわけではなく、僕は現代(いま)を生きることに思い上がりたくはないのです。
空を切り裂いて落下する滝のように、僕はよどみない命を生きたい。
キリマンジャロの白い雪、それを支える紺碧の空、僕は風に向かって立つライオンでありたい~。

(わたしは、川べりに寝そべるカバぐらいでいいかな~。)

くれぐれも皆さんによろしく伝えてください。
最後になりましたが、あなたの幸せを、心から、遠くから、いつも祈っています。
おめでとう。
さよなら。

(最後になりましたが、皆さんの健康と幸せを、心から、遠くから、砂漠の鉄道のワゴンの中から、いつも祈っています。
それではまた、ごきげんよう。)

安希

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1件のコメント

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    ご縁あって、フォーラムのメーリングリストに参加させていただき、いつも安希さんのブログを読ませていただいています。ブログを読ませていただく度に、人間って、素敵!と、感涙しています。どうぞ、お身体に気をつけて素敵な旅を続けてください。レポート、楽しみにしています。From Tokyo

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