89.裁判所体験記(ハラレ)
携帯の盗難事件に巻き込まれ、アフリカで裁判所デビューです。

皆さん、こんにちは。ハラレ滞在が長引いている安希からのレポートです。
近代都市に久々にやってくると、快適なあまりついつい長居してしまうのは、先進国の甘く便利な生活になれてしまったおばちゃんの性(さが)ですね。

安いインターネット、国際電話、郵便サービス、大使館、便利な街を利用して、普段なかなか出来ない作業を片付けようと、朝から大忙しのハラレ生活も楽ではありません。
ガーナ大使館へビザを申請し、フライト状況を調べ…、とネット屋さんにこもって作業を続けていた日曜日のお昼頃、軽犯罪に巻き込まれました。スリです。

時刻は昼前、場所は台湾系インターネット屋さん。南アからガーナまでの航空券の値段と空き状況を調べていたときに発生しました。
年末時が近づいて、じわじわと値上がりするチケット状況に苛立ちつつ、どうにかして少しでも安いチケットを手に入れようと、朝からネット屋さんに缶詰めをしておりました。
値段の表示はサイトや航空会社によって異なります。米ドル表示もあれば、南アランド表示もある。ナイジェリア経由だと、途中からナイジェリアのナイラ払いになったりして、簡単には比較できません。

そこで、私のPCの周りには、航空会社の情報、メモ書き、ガイドブック、が山を成し、左手の携帯電話の電卓機能で、通貨単位をドルにあわせて、せっせと計算をしてはメモをとっておりました。
そして、あらたに別のサイトを調べようと、携帯電話をマウスの横に置いてスクリーンを覗き込んでいたところ、店の入り口付近で怒声が起こりました。
なにやら揉み合いになっているらしい。一瞬ドア付近を振り返ったけれど、調べごとに忙しい私は、すぐに視線をスクリーンに戻し、次の瞬間、マウスの横に置いた携帯を掴もうとしました。
がしかし!携帯がない!

さっき右手の横に置いたはずの携帯電話がない!慌てて立ち上がり、山になった書類を掻き分けて携帯を探す私。その一方で、今度は店の奥で何人かの男が突き飛ばしあいになっています。
「携帯がない。ない。」と言いながら、椅子の周りや机の周りを探していると、台湾人のオーナーのおばさんが、「どうしたの!?」と気合の入った形相で聞いてきました。
「確かにここに置いたはずの携帯がなくなりました。」
するとおばさんは「これはあなたの携帯ですか?」と私の携帯を握り締めているではありませんの!
おお~、それだ、私の携帯だぁ。おばさんは言いました「どうしてあなたの携帯がここにあるのよ!」
「知らないわよ。一瞬のうちになくなってしまったのよ!」

どうやら一瞬目を放した隙に、私の携帯がスリにあい、それを見ていた店のスタッフ(数人がいつも店内で目を光らせています)が発見し、ドアのところで取り押さえ、揉み合いになったらしい。
そして奥へ連れて行かれた犯人は、その場で再びリンチ。スタッフ数人から殴られていました。

すぐに警察がやって来たので、犯人は手錠をかけられて、私はスタッフ3人と共に近くの派出所へ行って事情聴取となりました。
とりあえず軽犯罪で、盗難品も手元に返ってきているわけだし、それほど深刻ではなかったと思いますが、派出所では、計3人に警官にそれぞれ質問され、1時間近く拘束されてしまいました。
犯人はカウンター奥の牢屋に入れられて、格子越しにこっちを見ています。いやな状況ですねぇ。犯人に見られたままというのは…。
そして時々、革のムチをもった警察が牢屋のなかへ入っていって、ビシッ、ビシッと犯人達を痛めつけます。悪いことをした人間を暴力で罰するのはアフリカ流秩序を守る方法?なのでしょうか。
例えばウガンダなのの田舎で盗みをはらたいてバレた人間は、村中の人にリンチを受け、時にはそのまま死にいたり、その場で燃やされてしまうのが普通なのだそうです。

さて、警察官達はというと、無意味にだらだら仕事をして「忙しいので待ってくれ」を繰り返し、長時間待たされた挙句、質問も無意味に長くて、面倒でした。(面倒を起こした張本人は、携帯を机の上に置いたりした私自身ですが…。)
その内容は:

「あなたは何所の出身者ですか?」
「日本です。」
「日本は今、どんな風ですか?」
「知りません。長い間日本を離れていますから。」
「ジンバブエで何をしているのですか?」
「だたの観光客です。」
「結婚していますか?」
「独身です。」
「何故ですか?」
「なぜなら旅をしているからです。」
「ボーイフレンドはいるのですか?」
「当たり前です。」(旅には沢山のウソが必要。身の安全を守り、面倒な話から逃れるためのウソです。)
「ボーイフレンドはどこにいるのですか?」
「日本にいます。もうすぐ帰国して結婚します。」(旅には沢山のウソが必要。)
「ジンバブエ人の男はどう思いますか?」
「どうも思いません。」
「あなたは何歳ですか?」
「おばちゃんです。」
「あなたは若く見えます。」
「そう言われて嬉しいですが、残念ですねぇ、おばちゃんです。パスポートで誕生日を確認してください。おばちゃんです。」
「明日は暇ですか?」
「忙しいです。」
「どこかへ遊びに行きませんか?」
「行きません。」
「電話番号を教えてください。」
「電話番号はありません。」
「携帯電話を持っているのではないですか?」
「盗まれると困るので、携帯はもう二度と持ち歩きません。」
隣の婦人警官がさっきからニヤニヤしています。
「警察官をどう思いますか?」
「警察官より、消防士が好きです。」(旅には適当なウソとユーモアが必要。)
ここで、隣の婦人警官が爆笑。警官本人と3人の同行したスタッフも笑い出しましたよ。
「どうして消防士なんだい?警察官のほうがずっといい。」
「警察官は忙しすぎます。デートに行くにも『忙しいので待ってくれ』を繰り返されたらつまらないから、警察官はダメです。」
婦人警官大爆笑。
旅をしていると既婚、未婚に関係なく日本人はこの手の無意味な質問に日々対応しなければなりません。疲れる事情聴取でした。
国外に脱出したい人があまりに多いアフリカ。特に経済状況が最悪のジンバブエならではの質問です。

最後に警官は、「明日の午後1時に、裁判所のROOM14で本件の裁判があるので、是非出席してください。」と言って、メモをくれました。

さて翌日は、朝からまた大忙しで、裁判なんかに行っている暇はなく、夕方宿に戻ると、宿のオーナーが「警察が来ていた」と。
話を聞くと、私が証言者として出廷せず、しかも犯人が容疑を否認したため、立件できず裁判が先延ばしになったらしい。そこで翌朝まず、ハラレ警察署に出向し、その後裁判所に来るように。と。
面倒なことになってきました。携帯電話くらい、どうでもいいじゃんかぁ、という気持ちにもなったけれど、話によれば犯人は前科のある男で、最近外人を狙ったスリも多発しており、警察としてはここまで追い詰めているのだからどうしても監獄に送りたいらしい。

したがって翌朝、土砂降りの中を警察庁まで出向きました。手錠をかけられた犯罪者がピックアップトラックの後ろに14人ほど乗せられ、私は助手席に乗って、次は裁判所へ。
犯人と一緒に、廊下で立ったまま1時間半も待たされて、やっと事前聴取になり、部屋に入って犯人と並び、検察官(?)の聴取開始。
ところが、今回も犯人が容疑を否認。

盗難品所持者の私と、現場を押さえた目撃者である店のスタッフが揃わないと、立件できないということになりました。
「彼は容疑を否認しています。可能性としては、本当の犯人は実は店のスタッフ自身であって、他人である容疑者を犯人扱いしているだけとも考えられる。」と。
確かに。論理としてはおっしゃる通りですわねぇ。そして今日は、目撃者のスタッフが来ていな~い!
さすが前科のある犯人だけあって、所持者と目撃者の両方がいなければ、容疑を否認している限りは立件不可能ことを熟知しているらしい。まっ負けた…。

そこで検察官は言いました。
「今日は立件できないので、明日また来てください。」
「えぇ~、明日ですか?またですか?それは困ります。私はツーリストで忙しいのです。毎日こんなことのために裁判所やら警察署に通っていたら、観光ができません。」
「とにかく詳細は警察官のほうから連絡が行くと思います。」
聴取はこれにて終了。

夕方になって再び警官が宿へやって来て、
「明日は、目撃者も必ず連れて行くので、頼むからもう一度明日来て欲しい。」と。
そこで翌朝8時、再び警察庁へ行き、今度はスタッフと私と警官で最後の確認を済ませ、再びピックアップトラックへ。
こんどは、犯人達と被害者(私の他にも大勢)が一緒になって、トラックの荷台にぎゅうぎゅう詰めで乗せられて、いざ裁判所へ。ひえ~、なんじゃこれは~。カーブがくるとトラックから落っこちちゃうわよ~。

そして再び、廊下で待つこと数時間。検察官の事前聴取も今度こそ通過し、いよいよ出廷です。傍聴席にスタッフと共に座って、ここからがまた忍耐の待ち時間でした。
もういい加減にしてくれと思いましたね。おそらく外人の旅行者で真面目に出廷する被害者はいないでしょうし、これだけ待たされたら普通だったら途中で退席してしまうでしょう。
朝から何も食べずに、長時間立ったり、狭い椅子にぎゅう詰めで座り続けたりしていたら、貧血で眩暈がしてきました。困ったわねぇ、早くごはん食べに行きたいわねぇ…、裁判なんかもうどうでもいいわねぇ…、と思い始めたお昼頃、やっと裁判官が登場しました。
遅いよ~、裁判官!

軽犯罪の裁判がいっせいに行われるらしく、傍聴席は被害者や加害者の家族でぎっしりでした。廊下まではみ出した立ち見も含めると70人を超えていたかと思います。
さらに、前方右側に4人の検察官。左側に4人の弁護士が座り、それ以外の警官や護衛、その他の係官(どういう役職かは知りません)が十数名入って、なかなか盛大な裁判でした。
裁判官は常に英語で話し、検察官や弁護士は、英語か現地語のショナ語で裁判は執り行われました。
そして結果、我々の犯人は、有罪確定。40日間の牢獄生活または10ミリオンのジンバドル(闇レートで10米ドル前後。公式レートで約300米ドル)の罰金となりました。

今回は、携帯のスリに失敗するという軽犯罪でしたが、旅を始めて1年5ヶ月目で初めて経験した犯罪らしき犯罪だという点を考慮すると、やはりここはアフリカ。そして経済と政治情勢が極めて不安定な国に来ているのだという気がしました。

一日目の検察の事前聴取の際に、「私は忙しいので何度も裁判所には来れません。」と困り顔で検察官に微笑んだとき、一緒に微笑んだ犯人の顔が今でも思い浮かびます。
そのときの彼の目は、私につられてつい緊張が解けて微笑んでしまった普通の人間の目でした。被害者が困った顔で相好を崩したので、ついホッとして親近感を持って笑ってしまったのでしょう。そんな感じの笑みでした。そしてちょっと気まずそうにしていた姿も思い出されます。
そして裁判の日、傍聴席に座っていた犯人の家族(妻?)らしき女性の姿も忘れられません。
小さな子供を背中に負って、古びた服に疲れた髪形をした女性が、傍聴人に混ざって心配そうに裁判を見守っていました。私は裁判所へ入る入り口付近で、彼らがすれ違う際に少し言葉を交わしていたのを見て知り合いであることを知ったのですが、その後、裁判が終わるまで、その女性のことがとても気になりました。

もちろんこれは経済崩壊のジンバブエに限ったことではないけれど、生活が楽にならず、犯罪の悪循環にはまっていってしまう人がいて、その人にも食べさせていかなければいけない家族がいるという当たり前のことを考えさせられた一件でした。
彼がその後、40日間の獄中生活を選んだのか、それとも10ミリオンの罰金を選んだのかは知りません。10ミリオンジンバドルは、我々外人や現地の高所得者にとっては、それが10ドルでも300米ドルでも、大した額ではありません。けれど犯人や彼の家族にとっては、どちらも苦しい罰だったと思います。

事前聴取で目が合って微笑んでしまったとき、「犯罪を犯しておいて、へらへら笑っている場合じゃない!」という気持ちと「見逃してあげてもいいではないか」という気持ちと、けれど「罪を清算して、違う道へ進んで欲しい」という願いの3つの思いが交錯しました。
罪の清算が終わったとき、果たして彼には何が待っているのでしょうか?変わらぬ生活苦と、犯罪への誘惑だけなのではないかと思うと気持ちが沈みます。

ジンバブエは紳士的で、都会的で、素晴らしい国でもあるけれど、やはり他の国と同様に、その裏舞台には大きな闇を抱えた国なのだと思いました。
いつかジンバブエでの生活を振り返ったとき、楽しく快適な生活の中に、あの傍聴席にいた女性と子供の姿を思い出すだろうと思います。
いろいろと考えさせられるハラレ生活です。そしてまだしばらくは続くハラレ生活です。

それではまた。ごきげんよう。

安希

追伸:
芸術がすごいジンバブエ。刺激満天のハラレ生活。ナイトクラブに、楽器のレッスンに、映画鑑賞。
40円で見られるダイハード4を映画館へ観に行くと、ジンバ人は大盛り上がり!インドの映画館並みの盛り上がりようで、ワンアクションごとに拍手や歓声が沸いて、ギャグの場面は皆で爆笑。
このノリ、買いです!!やっぱり一緒に映画を観るならジンバ人です。楽しすぎます!

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