68.神様のスケジュール①(アルマハ)
「インシャーラ」の意味をご存知ですか?このアラビア語の前に右往左往の一週間でした。

皆さん、こんばんは。安希@アルマハという紅海に面した港町から。
サナアから少しずつ山を下り、紅海に面した小さな港町アルマハにやって来たのがもう6日前。サナアを離れてから早くも9日目。標高が2500m近く下がってしまい、また海沿いと言うこともあって、この暑さと湿度!にうんざりしています。
小さく汚い、何もない港町。先日は砂嵐に吹かれ、ご飯を食べているのか、砂埃を食べているのか、舞い上がって飛んでくるゴミ(主に捨てられたビニール袋)を食べているのか・・・自分でも良く分からない、なぜなら目が開けていられないのだ~うぉ。という環境です。
ではこんな僻地で何をしているかというと、アフリカのジブチへ向かう船の出港を待っているのです。
従って、今回のレポートもまた、医療や国際協力とは何の関係もなく、極めてシンプルに「アラブの国の旅人生活」のお話を。

アルマハからジブチへ向かう船は全て貨物船。エリトリアやソマリアへ向かう船とは違い、小型で木造というのが特徴です。ジブチの隣国ソマリア周辺の海は中国系の海賊などの縄張りとなっていて、またソマリアが現在無政府状態であることから治安が悪く、従って小型コンテナ船ぐらいの頑丈さは必要なようです。
一方ジブチ行きの船はというと、かなりシンプル。ジブチの船が海賊に出くわしたという情報は今のところ聞いていないので、木造貨物船でも大丈夫なのでしょう。小さな船です。全長35mくらいしかありません。
港には500~700頭くらいの、牛、ラクダ、羊、ヤギなどが集められています。どうやら、それらの家畜はアフリカから輸入されてきたものらしく、仕分け係さんにお尻をボンボン叩かれながら、グループごとに固まってもう数日間も港に滞在していますよ。なかでもラクダが一番反抗的で、しかも体格がよいので仕分け係も一苦労。綱を引っ張るイエメンの男達をラクダが引きずりまわす光景は何とも迫力があります。

アルマハに着いた初日、港へ船を捜しに行くと、木造船の中には木の柵で仕分けされた家畜たちが、つまり、牛5頭が一つのわく、また羊さんは羊さんグループの柵のなかで待機中でした。まさにノアの箱舟状態。冷凍技術がない国々において、鮮度の維持が可能な輸送手段はただひとつ、「生きたまま運んじゃえ!」でした。賢い!鮮度は抜群です。ただ、スペースがものすごくかかるのと、餌と排泄物の処理が大変ですけれど。「積み家畜」を船から降ろすところは見ることが出来ませんでしたが、小さな木船なので、橋を架けて引っ張って下ろせばどうにかなるかな~?という感じですね。
ところで大型船(ソマリア用)コンテナの家畜の積み下ろしは、クレーンです。ラクダや牛が2頭ずつ吊り上げられて空中を舞っていきます。みんな大人しくぶら下がっています。暴れたら海に落っこちてしまいますからね。
そんなわけで、「ノアの箱舟」がジブチへ向かう日を待っているのですが、う~ん、時間かかってますね。2日に一度か、週2便は船が出ているらしい・・との情報を信じて山を下ってきたのに、まさかまさか1週間も足止めなんて、悲しいのでございます。
しかも一番の問題はアラブ式スケジュール。つまり、船は「もしも神様が決断すれば」いつでも出港するという、人類や科学では解決できない複雑な構造になっているのです。なので、いつ神様が決断するか分からない船を待つより他することなし。アラビア半島とアフリカ大陸の間なんて僅か100kmくらいなのに、この距離を超えるのに1週間もかかっているおバカパッカーです。どうも。

■私も彼も、知る由もなく

紅海を渡る貨物船の情報はとても少なく、実際にアルマハへ行くまではどうなるか分からない状況でした。例えば、小さな木造船に積まれたたまねぎの上に寝転がっていくとか、牛と一緒に乗っていくとか、女一人では乗せてもらえないとか、女だからこそキャプテンにキスをすればタダで乗せてもらえるとか、15時間くらいでジブチへ到着するとか、下手をすると二泊三日はかかるとか…。要するに確かなことは何一つ分からない。
サナアからエチオピアのアジスアババへ飛んでしまえば楽チンだけれども、どうせ行くなら、寂れた港町や紅海を見てみたい。そして貨物船とやらに乗ってみたいという好奇心から、とりあえずアルマハまでの道を下り港へ行って状況を確認してから決断する予定でした。もちろん、イミグレで女であることを理由にストップがかかれば「泣き落とし作戦」、そしてタダ乗りに備えて、ちょっとお洒落なイスラムファッションとボロボロバックパッカーに似合わぬメークアップキッドまで準備して計画を立てていました。

ところが状況は一転。サナアの同じ宿で韓国人の旅行者に出会い、彼の話によると…「船の乗組員はパキスタン系の小汚い労働者ばかりで、女一人で船にのるなどもってのほか!男と一緒でなければ絶対に乗ってはいけない」と。
情報の出所は不明といういい加減さで、「では今までに誰かが襲われたことがあるのか?」と聞くと、「女が襲われたことはないが、男の旅行者が二人襲われた!」と。しかも情報の出所はまたまた不明。
女一人の場合は絶対に船に乗らないと俺に約束してくれ、と何故か約束させられ(…?)、約束を取り付けた彼は、その翌日にアフリカ東海岸沿いの極小島国、コモロという国へ飛び立っていきました。

困りました。約束させられたけれど、やはり自分の目で船と港を見るまでは諦められない…。迷いつつも情報収集をしていると、彼(サムソン勤務。一年のオフをもらって世界旅行中、プラス、サムソンへのレポート中の旅人)からコモロの島の詳細やイミグレ情報を事細かに記したメールが届き、すぐにサナアからコモロへ飛ぶように、と。
コモロ?皆様、コモロをご存知ですか?今すぐ地図のご用意を。マダガスカル島の北に浮かぶ、ゴマ粒のような島で1978?年にフランスより独立しました。物価はやや高めで、フランス語圏に属します。どうも。
う~ん、美しい島国らしいけれど、なぜこんな僻地に飛ばなきゃならないのだ…。遠隔医療の調査目的?にしては物価が高すぎるし、コモロから先のスケジューリングがさらにややこしくなる。
謎の小島への興味は湧きましたが、やはりここは自分のスケジュールを最優先し、丁重にお断りしました。

さて、彼には「一人で船には乗らない」と約束してみたものの、やっぱり航海の夢を捨てきれず、とりあえずジブチとエチオピアのビザを取得して港へ下り、ダメならサナアへ戻ってアジスへ飛ぶ計画をたてました。ちなみにサナアからのアジス行き片道チケットは178ドルでした。まあ、悪くはないですね。
早朝7時に日本大使館へ行き、レターをもらってその足でジブチ大使館へ行くつもりで、朝準備をしていると、誰かが部屋のドアをノックするのです。?誰ですか、こんな朝から?とドアを開けると、コモロにいるはずのコリアントラベラーが眠そうな顔で立っていまして…、「僕との約束を破って一人で紅海を渡るつもりだろ」となぜか見抜かれておりまして、「従って、ボディーガードのためにわざわざコモロから戻ってきたので、ジブチ行きの船に乗るのならば、僕も一緒に行きます。」と。
…はぃ?困りました。男が一緒だと、「キスでタダ乗り作戦」に失敗しちゃうじゃない!「絶対に一人では船に乗せない。」と言い張る彼と、「一人旅の邪魔をしないで下さい。」と反抗するわたくしで、3回の大喧嘩をし、うんうん、でも良く考えたら、普通は女側が「ボディーガードをお願いするか、男性トラベラーに同行させてもらう」のが筋ではないのだろうか・・・。状況があべこべになってしまいました。
そんなわけで最後は私が折れる形で、ビザの準備が整い次第、サムソンの男性と一緒にジブチを目指すことになりました。

さて、サナア出発から2日後の夕方、アルマハにたどり着いた我々は、大急ぎでイミグレーションオフィスへ駆け込みました。オフィスとは言っても、寂れた小さな小屋のようなものです。
中へ入ると、床に敷物を並べた大使、および2人の職人が、ごろごろと横になり、カート(イエメン特有のちょっとした麻薬のような葉っぱで男なら皆、毎日カートを噛むのが日課)を噛みながらダイエットペプシを飲んで微笑んでいる。
エアコンのある部屋がそこしかないので、皆がその小さな部屋に篭って、毎日ごろごろしながらカートを食べているらしい。我々が入っていくと、大使は床に寝転がったまま笑顔で言いました、「まあまあ、君達もその辺にテキトウに座ってゆっくり休みなさい。ダイエットペプシ、飲むかい?」と。
はぃ?

そして、船のスケジュールを聞くと、彼は再び優しそうな顔で言いました。「インシャーラ。(神が決断を下せば)」はぃ?それだけですか?
「で、具体的に、いつ船はでるのですか?今夜の船はありますか?」
「もちろん、いつだって船はあるとも。」
「じゃあ、今夜、ジブチへ行けるのですか?」
「インシャーラ。そんなことより、まあこのエアコンの効いた部屋でゆっくりしていきなさい。君達は何所から来たんだね?」
「韓国と日本です。」
「彼女は、君のマダム(妻)かい?」
「はい、マダムです。」(はぁ、イランに続き、またも結婚してしまった私です。イスラム圏では未婚の男女関係は厄介なので結婚しておいたほうが話が早い。つまりバツイチ再婚のわたくし。」
「君達の職業は?」
「僕は学生です。(ウソ)」
「私はオフィスワークです。(ウソ)」
「いつイエメンへ来たんだい?」(入国日が違っている怪しげな夫婦)
「僕は最近コモロへ行って帰ってきたのでその間にマダムはサナアを観光していました。従って、僕の入国日は妻のものと異なっています。」
「コモロ?マダムを置き去りにして、コモロへ何をしにいってたんだい?」
「急なビジネストリップです。」(あれ?さっき職業は学生ですって言ったじゃん!)
「ほぉ~。素晴らしいね。ではこの後アフリカを旅して、その後は韓国に住むのかい?それとも日本?」
「北京です。僕の支社は北京なので。」(だから、さっき学生だって言ったじゃん!いつの間にかサムソンの男になってるじゃん!)
「君達は何所で知り合ったの?」
「…サナア。」
「ほぉ~、それは素晴らしい。」(ちょっとちょっと、大使さん、話のズレにいい加減気づいたほうがいいよ。ほぉ~って感心してる場合じゃないよ。)
そして大使さんは、大量のカートの葉っぱを取り出し、相変わらず床に寝転がったままサムソンの彼に言いました。
「さあさあ、君達も一緒にカートをやろう!」(って、これ、軽い麻薬やないですか~!)

礼儀上のこともあって、韓国人の彼はしぶしぶカートを口へ入れ、苦味に耐える!がんばれ~。すると今度は、マダムも是非一緒にカートをしましょうと誘われ、とにかくマダムはカートが嫌いなので、なんとか口実をつけて上手くお断りしなくてはいけません。
「僕のマダムにカートを勧めないでください。」と、サムソン君も必死で制止。
「どうしてだい?イエメンでは女性もみんな家でカートをやっているんだ。是非マダムにも勧めてください。」
「いやマダムは今、…実は妊娠中なんで、カートはちょっと…。」(おお、私は妊娠してるのかい?)
すると、部屋にいた3人は大喜びで祝福してくれて、うちは子供が5人いるとか、君達は将来何人子供がほしいのだい?とか…。(だから、常識で考えてサナアで出会ったばかりのマダムが妊娠してるわけないでしょう!喜んでないで、日数を計算しなさい!出会ってまだ10日もたっておりませんぞ!)
「ところで話を戻しますが、船に乗るにはどうすればいいんでしょうか?」
「何も心配することはない。インシャーラだよ。いつだって、大丈夫。」(だから、何が大丈夫なの?)

要するに、私も彼も、まるで出所不明の情報を持って、「神が決断を下せば」以外の有力な情報もないまま、アルマハでの待機を始めることになったわけです。
1~2日中には出港できるであろう、という軽い期待といい加減な予測を抱きつつ。

長くなってきましたので、続きは後半にて。

それではまた。

安希

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2件のコメント

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    安希 さんは、世界中回っておられるのですね。日本で息が詰まると世界に飛び出していますがまだまだ。。。今年の夏、イエメンに10日間滞在しました。イエメンは最高です。どこの国よりアラビアらしくまた、人懐っこく素晴らしい!(ほめすぎ)また、楽しく読ませていただきます。

  2. SECRET: 0
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    コメントありがとうございます。イエメン、本当にいい国ですよね。文化、建築、人、食べ物、物価、すべてGOOD.私も褒め過ぎ?

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