映画『ファルージャ イラク戦争日本人人質事件…そして』〜何を信じて生きるのか 〜

先週この世を去ったネルソン・マンデラ氏は、かつて、イラク戦争を主導したアメリカのブッシュ前大統領を指してこう言ったそうだ。
『先を見通す力がなく、マトモに思考できない大統領。彼は、世界をホロコーストに突き落とそうとしている』
当時の日本の首相、小泉純一郎は、その大統領に最大の理解を示し、アメリカの戦闘行為を全面的に支持した。

10年前、アメリカがイラクに侵攻する約一ヶ月前、私はサンフランシスコの路上にいた。集まった10万人を超える市民と共にシティーホールを目指して歩いた。

反戦を訴えて、マーケットストリートを行進する市民。
反戦を訴えて、マーケットストリートを行進する市民。
ビルの中から応援する人々。
ビルの中から応援する人々。
反戦プラカードを持って、シティーホール前に集まった人々。
反戦プラカードを持って、シティーホール前に集まった人々。

デモの群衆の中に、ひときわ目立つ集団があった。そのヒッピーっぽい身なりをした若者の集団は、激しく太鼓を打ち鳴らし、叫び声を上げながら、ユニオンスクエアを目指して行進を続けた。彼らはこう繰り返した。

”WE DON’T WANT THE FxxKING WAR!”

ユニオンスクエアまであとワンブロックのところまで来たとき、警察の騎馬隊が現れて若者たちの行く手を塞いだ。一瞬の沈黙のあと、若者たちは雄叫びを上げながら、騎馬隊に向かって突進した。警官が警棒を振り下ろし、辺りは騒然となる。捉えられた若者たちは警官に両脇を抱えられ護送車へと運び込まれていった。所詮は、無教養で小汚いヒッピー気取りな若者たちの、幼稚で節度を欠いたバカ騒ぎである。

警察の騎馬隊が、若者たちの行く手を塞ぐ。
警察の騎馬隊が、若者たちの行く手を塞ぐ。
騎馬隊に突進する若者たち。
騎馬隊に突進する若者たち。

『たとえ世界中の人々が反対しようと、アメリカは戦争を始めるだろう』
メディアが予想した通り、イラクは戦争に巻き込まれた。なぜならアメリカの政治家とマスコミは、正義感にあふれていたから。彼らはこう繰り返した。

「イラクは大量破壊兵器を保有する危険な国だ。だから我々は、世界の危機に立ち向かい、イラクに民主化をもたらしてやる必要がある」と。

高い教養を積み、世界の事情に精通した官僚たち、高い地位と権力を手に入れた立派な政治家たちは、テレビ画面の中で見事な弁論を繰り広げ、イラクを潰しに行った。あの時、日本の首相も確信を持ってこう言い切ったはずだ。「イラクには大量破壊兵器がある」と。そして日本は、自衛隊をイラクに送った。

あの戦争から10年が経った。大量破壊兵器は見つからなかった。10万を超えるイラク人の命が奪われた。アメリカが落とした化学兵器の爪痕は、今現在、奇形児として生まれてくる子どもたちの痛々しい身体に刻まれ続けている。

私は政治家の言葉を信じない。

WE DON’T WNAT THE FxxKING WAR.
私はあの若者たちの言葉を信じる。
彼らは、あまりにも正しく、マトモな人間だった。

昨日、『ファルージャ』という映画を見た。2004年にイラクで起きた日本人人質事件のその後を追ったドキュメンタリー。あのとき日本中を巻き込んだ「自己責任論」、解放された3人とその家族を執拗に襲った誹謗中傷は、今も当時の息苦しさと共によく覚えている。人質に寄せられた抗議ファックスの存在をメディアが一斉に報じると、それに便乗する人々が批判の嵐を巻き起こした。またそれに煽られるように、政治家や論客が過激な発言を繰り返し、非難は雪だるま式に膨らんでいった。

2004年3月末、私は戦争まみれだったアメリカでの生活を終えて帰国した。久しぶりに帰国した母国で最初に直面した出来事、それがあの人質事件だった。事件から2年後、私はまた、逃げるように日本を離れた。日本が怖かった。日本の国が怖かった。日本の人が、怖かったから。

昨日は映画を観る前から、身体の震えが止まらなかった。持っていったティッシュは全部使い果たした。10年分の膿みを1時間半で出し切りたかったから、そこはもう、人目をはばからず・・・(暗い映画館の中ですし)。

映画での証言によれば、犯行グループの構成員はイラクの地元民だったらしい。戦闘によって子どもや親戚を失った一般市民が、武装して犯行に及んだ。彼らは、英語も理解できない、人質が日本のスパイなのか政府関係者なのかも分かっていない素人だった。犯行グループは、3日以内に自衛隊をイラクから撤退しなければ、3人を焼き殺すと宣言した。それを受けて日本政府は、「自己責任」を盾に撤退を拒否。事実上「焼き殺してもよい」との判断を下した。

取り引きに失敗した犯行グループは、しかし3人を解放した。3人がスパイや自衛隊とは関係がなく、イラク人を助けるためにきた人間だったことを理解したとき、彼らは最初の声明を撤回し、3人の命を日本へ返した。しかし生きて帰ってきた3人を待っていたのは、日本という国からの激しいバッシングの嵐だった。

10万人の殺戮を主導しても、政治家はその罪を問われない。人を助けようと海を渡った人たちに、社会は容赦ない罵詈雑言を投げつける。私は何を信じて生きていけばいいのだろう。私は政治家を人として信用しない。

ただ、映画館を出たときに、観る前の予想に反して気持ちが前向きになっていることに気がついた。それは映画の中で紹介された2つの事実によるものだと思う。

一つ目は抗議ファックスについて。人質解放までの間に届いたファックスのうち、人質を非難するものが約500枚。それに対して、報道されなかった励ましのファックスが約800枚もあったという。そっか、そうだったんだ。(笑)マスコミに、まんまと騙されました。

それからやはり、作中に出てくる高遠さんと今井さんのお二人が、今また前を向いて活動されていることが分かったこと。ここへたどり着くまでの困難は、想像するとまた涙がでてくるからやめておくけれど、彼らは政治や世間の犠牲にされることも、チープなヒロイズムに祭り上げられることもなく生き延びることができました。今井さんが受け取った抗議文の数々、彼も作中で言っていますが、確かに今読むと笑えるかも。稚拙な文章で、一生懸命悪口が書いてあるんですね。(笑)それを笑ってくれている彼に、感謝したいです。

イラクでは今も混乱が続いています。日本の政治もマスコミも何一つ変わっていません。けれどこの映画を観ることで、この10年間自分を縛り続けていたものの一部から、やっと解放された気がしました。観て良かった。
この映画を撮った若い監督さんにも、ありがとうとございます、と言いたいです。

映画を観終えたあと(深夜2時15分に終わりまして・・・)、始発電車が動くまで、深夜の街中をぶらついて時間を潰しました。また明日から前を向いて、一歩一歩前進していこうと思いました。

ではまた、ごきげんよう。

安希

 

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7件のコメント

  1. 高畑さんのドキュメンタリーを以前見たことがあります。「たとえ拉致されて恐ろしいめにあっても、イラクの人たちを嫌いになることはできない」という言葉に衝撃をうけました。信念と言えば表現が陳腐ですが、記憶に囚われずに心のままに行動できる底知れない強さに感動しました。

  2. 正義とは何か?
    国家は民意の代表者ではない。
    国家は国益追求のために動く。
    かといって国家が必ずしも正義なわけでもない。
    そう考えたとき、ならば個々が自分の信念に基づいて判断、行動すればいいんじゃないでしょうかね?
    大衆に踊らされるようでは、まだまだ修行が足らんよね。
    それでは、お気をつけてさすらいの旅にお出かけくださいませ。

  3. 「何でもないことは流行に従う、
    重大なことは道徳に従う。
    芸術のことは自分に従う。」
    故小津 安二郎氏の言葉です。

  4. こんばんは。

    まあ、いろいろあるとは思いますが、世の中とは大昔からこんなもんだったと思います。

    民主党の細野氏もなんだかんだ民主党にとどまるみたいですし、彼を見習おうとは言いませんが、まあ、気長にやりましょう。

    その時代その時代、ステキな人もいますので。

  5.  政治家を人として信用しない、というのは正しくて、必要なことだと思います。
     ナチの手法に学べ、とか、駐留米兵には日本の風俗を利用してもらいたい、とか、市民デモはテロと同じだ、とか、初対面の人から無利子、無担保で5,000万円借りる人とか、究極は、戦前の日本を取り戻そうとしている人、等々を人として信用してはいけないと思います。しっかりと彼らの本性を見極めて、選挙の時に、その見極めをもとに投票する必要があります。
     また、提灯持ちと野次馬ばかりのマスコミ(そうでない人がいたらごめんなさい)も信用してはならない、踊らされてはならない、と思います。
     これらを疑い、本性を見抜く力を養いたいと思います。
     もちろん、これらとは違う次元で、前向きに、人のために、子どもたちのために、努力している人たちがいる、ということも忘れてはならないと思います。
     「ファルージャ」見てみたいです。

  6. 失礼しました~(;_ _;)
    中村さんの疑問への意見を書き忘れました
    じゃあ、何を、誰を、信じればいいのか??…
    自分でしょ!!
    みたいな?!
    って、けして、自慢でなく、慢心でなく、過信でもなく…
    自分を信じられるように、自分の力、本質を見抜く力を養うことが大事
    …だと思う今日この頃です

  7. 高遠さんの講演を聞いたことがあります。それ以前にある小さな媒体に高遠さんのことを強く支持する文章を書いていたこともあって、近くの街で行われた講演会に行きました。自分たちの人質体験よりももっと緊急に、多くの人に聞いていただきたいことがある、という前置きで話された内容は、ファルージャにおける米軍のすさまじい戦争犯罪のことでした。
    日本のマスメディアは、「テロとの戦い」「独裁打倒・民主化」の名のもとに行われる、こうした事実をなぜ伝えようとしないのでしょう。
    「ファルージャ」の映画、私も見に行きたいと思います。

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